翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2011年12月19日
おいしいけどやっぱり危険?!フグ中毒について

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

有毒フグによる中毒(globefish poisoning)事故が跡を絶ちません。報告数は毎年数十件にも及び、被害者の約2割が命を落としています。事故のほとんどは、免許を持たない素人の調理によるものです。

フグ毒の正体はテトロドトキシン(TTX:tetrodotoxin)と呼ばれる有機化合物であり、1964年にその化学構造が解明されました。TTXは神経毒ですが、いくら加熱してもその毒性が消えることはありません。

唇や指先のしびれがフグ中毒の始まりです。しびれ(numbness)は全身に広がり、頭痛や吐き気(nausea)、舌やのどの麻痺(paralysis)が起こります。その後、呼吸や心臓の機能が徐々に失われて死に至ります。フグ中毒は発症が早いほど重くなるため、8時間を過ぎてから発症した場合はほぼ全員が助かっています。

フグ中毒では胃洗浄をはじめさまざまな治療が行われますが、その中で特に重要とされることは、呼吸筋の麻痺に対する徹底した人工呼吸(artificial respiration)です。呼吸管理ができれば、後遺症(aftereffect)を全く残さずに患者を生還させることができるからです。なお、ある種のカニがTTX抑制物質を有しているとの報告があり、医療・医学分野での応用が期待されています。

ところで、同じ種類のフグでも固体によって毒の有無や強弱に違いがみられる場合があります。その理由は、TTXはフグ自身がつくるのではなく、エサを通して外部から取り込まれるからです。実際にTTXを合成しているのは海底にいる細菌たちであるため、それが食物連鎖を通してフグまで運ばれるというわけです。

フグはTTXを含むエサを好んで食べ、卵巣(ovary)や肝臓あるいは皮膚などにTTXを蓄積させます。これは捕食者への防衛手段であるため、無防備な卵のために卵巣に多くのTTXを蓄積させるというのも大いにうなずけます。

不思議なことに、フグは自らの毒にあたることがありません。フグにはTTX耐性があり、ふつうの魚の500倍くらいまでは平気です。しかしそれ以上になれば、さすがのフグも死んでしまいます。

フグの中で最も高級とされるトラフグの養殖では、TTXを蓄積させないようなエサが与えられますが、湾の一部を仕切っただけの養殖場では、TTXを含んだ天然のエサをフグが勝手に食べてしまうために、どうしても有毒のものが出てしまいます。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井