翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2012年05月21日
脳波伝播速度で血管の硬さがわかる

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

最近は人間ドックなどでも脳波伝播速度の検査が行われるようになりましたので、すでに体験済みという人も多いものと思います。英語でpulse wave velocityといい、その頭文字からPWVと呼ばれることもあります。検査の目的は血管年齢、あるいは動脈硬化指数をはかるというものです。

なぜ、脳波伝播速度が血管年齢や動脈硬化指数を表すことになるのか、また、その根拠はどうなっているのでしょうか。

脳波が伝わる速度(complete medical checkup)は、基本的に血管壁の硬さに比例します。固い物体ほど振動が速く伝わるという物理法則があるからです。つまり脳波伝播情報で得られる情報は、血管の硬さということになります。実際の速度は秒速十数メートルにもなり、体の中を瞬時に駆け抜けてしまいます。

血管の硬さと聞いてすぐに連想するのは、動脈硬化症です。文字どおりに解釈すれば、血管が固くなる病気ということになりますが、実際は違います。動脈硬化症は血管に脂肪がたまっておこる病気であるため、むしろ血管は柔らかくなっているのです。かなり前に聞いた話ですが、さまざまな原因で亡くなった人の血管を使って、実際の硬さを調べた研究者がいたそうです。血管に重りを載せ、どれくらいつぶれるかを調べたそうです。その結果、やはり動脈硬化症になった人の血管ほどつぶれやすく、柔らかくなっていたそうです。

脳波伝播速度で動脈硬化度が判定できるという説明がなされていることもあるようですが、明らかな間違いです。世の中には科学的な根拠がないまま、単なる流行で行われている検査が少なくありませんが、これもその一つといえるでしょう。

では、脳波伝播速度は何を表しているのでしょうか。

実は、血管が硬くなったり柔らかくなったりする原因がもう1つあります。血管壁には筋肉があり、自律神経、特に交感神経によって絶えずコントロールされています。基本的には血圧を調節するためのしくみです。

交感神経は、精神的なストレスによって過剰に働いてしまうことがあります。腕の力こぶからも想像できるように、筋肉が収縮すれば血管全体が硬くなり、その結果、脳波伝播速度も速くなります。つまりストレスだけで脳波伝播速度は速くなるのです。

精神的なストレス以外にも、交感神経が過剰に働いてしまうことがあります。たとえば肥満がそうです。外国で行われたある調査によれば、太っている人とそうでない人を血圧に差が出ないように2グループに分け、脳波伝播速度をはかったところ、両者に明らかな差が認められたということです。

一方、血圧治療薬の研究からも、意外なことがわかってきました。血圧治療薬は本来、血圧を下げるためのものですが、薬の中には、血圧を下げる効果があまりなく、脳波伝播速度を低下させる作用が非常に強いものが存在するというのです。

これらの事実からわかるのは、脳波伝播速度が血圧と無関係にストレスを表す指標として使えるのではないかということです。ストレスには精神的なものばかりでなく、肥満や喫煙、過剰な塩分摂取、運動不足なども含まれます。

一方、同じ事実から、脳波伝播速度は様々な理由で刻々と変化するものであり、血管年齢や動脈硬化症の指標としては不適切であることも、あらためてわかるのではないでしょうか。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井