翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2011年12月19日
膜の移動について

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

小胞は膜の生成に関わるもの以外にも、実に様々なものがあります。そのうちの一つが、細胞膜を融合してゴルジ体へ戻って融合する回収小胞です。たとえば、ホルモンや消化酵素(digestive enzyme)を細胞外へ分泌するために、分泌小胞が細胞膜に大量に融合したとしましょう。分泌が進むにつれて、細胞膜が過剰になるはずです。このとき、多くの回収小胞が細胞膜からサイトゾル(cytosol)側に向かって出芽し、細胞膜を回収してゴルジ体に融合します。また、エンドサイトーシスが盛んに起きると、今度は細胞膜が足りなくなります。もちろん、小胞が新たな細胞膜を供給しますが、他方では、食胞から余剰の膜が回収小胞として出芽して細胞膜と融合しています。こういう働きをする小胞もあり、他にもいろいろあります。

このように、細胞内のオルガネラは互いに関係があり、細胞内を小胞が移動していることがわかります。こういう現象全体を小胞輸送とか膜トラフィックといいます。小胞が細胞内を動き回っているわけです。翻訳済みタンパク質の選別や小胞出芽の仕組みだけでなく、小胞が積極的にサイトゾル内を移動する仕組みや、相手のオルガネラを選別して特定のオルガネラ膜と融合する仕組みなど、現在では多くのことがわかりつつあります。

オルガネラのもう一つのグループがミトコンドリア、葉緑体(chloroplast)、ペルオキシソーム(peroxisome)ですが、ミトコンドリアは他のオルガネラとは関係を持ちません。ミトコンドリア膜の脂質成分は、脂質を膜に組み込む酵素が別にあり、それによって供給されています。ミトコンドリアのタンパク質の一部は、ミトコンドリア自身が遺伝子DNAやそれを元にタンパク質を合成する装置(ミトコンドリア内の翻訳会社)をマトリックス内に持っていて、それによって合成されています。もっとも、大部分のミトコンドリアタンパク質は、他の細胞タンパク質と同様にサイトゾルの翻訳会社で合成されます。ただ、ミトコンドリアタンパク質の場合は、粗面小胞体(rough-surfaced endoplastic reticulum)で作られるのではなく、サイトゾル内の(つまり、小胞体に付着していない)翻訳会社で合成されるという点が他のオルガネラのタンパク質と大いに異なっています。翻訳済みタンパク質は特殊な方法でミトコンドリア膜を通過して内部のマトリックスや膜タンパク質となり、大きくなったミトコンドリアはバクテリアのように二分裂して数を増やすと考えられます。葉緑体も同様です。共生体として出発した歴史を背負っているともいえます。ペルオキシソームについては、共生体に由来するのかを含めてやや不明確ですが、同様に二分裂して増えるといわれています。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井