翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2012年01月10日
化学物質過敏症について

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

新しい家具や、すれ違った人の香水で、目がしばしばした経験をお持ちの方がいらっしゃると思います。ある種の化学物質に過敏に反応して、目や鼻に違和感を覚えたり頭痛がしたり気持ちが悪くなったりするような状態は「化学物質過敏症(chemical sensitivity)」と呼ばれています。医学界では「多量または長期にわたって微量の有害化学物質に暴露され、体内のレセプターなどがいったん過敏性を獲得すると、その後きわめて微量の同系統の化学物質との遭遇で複雑な臨床症状が出現してくる状態」と定義されることが多いようです。ただ、化学物質過敏症の半分以上の人が、新築住宅入居を期に発症しているというデータがあり、シックハウス症候群(sick house syndrome)と同義のように使われることも多いです。

化学物質過敏症のうち多くの原因を占めているのが、ホルムアルデヒド(formaldehyde)と揮発性有機化合物(volatile organic compound)といった室内で発生する空気汚染物質です。揮発性有機化合物の中には新建材や塗料、接着剤などの成分であるトルエンやキシレンなどが含まれています。内装材ばかりでなく家具や薬剤、外装材も油断がなりません。揮発性有機化合物は、もちろん労働安全衛生上や火災の問題も無視できませんが、室内空気汚染とそれに起因する健康被害にこそ着目すべきでしょう。

ただし、揮発性有機化合物は種類がきわめて多く、それぞれの安全性を評価し許容濃度を設定することは、非常に時間のかかることです。その中で世界保健機関は、代表的な揮発性有機化合物それぞれについてそのガイドライン値だけでなく、その総量についてもその濃度を300マイクログラム/立法メートルと提案しています。といっても、たとえばホルムアルデヒド濃度測定用サンプリング方法についても、国際標準化機構の専門組織で提案されているような状況です。

このような状況をふまえて、健康住宅研究会では、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、木材保存剤、可塑剤や防蟻剤を優先取組物質とし、化学物質の放散量が少ない健康性の高い住宅を実現するよう提案しています。そして建築物を提供する側が、たとえばJASでF1と表示された合板やJISでE0規格のパーティクルボードを用いる、あるいは壁装材料協会のインテリア材料に関する自主基準(ISM)を参考にするなどして、化学物質放散の可能性の少ない材料や施工法を選択することや、入居者へ住まい方の説明をするなどの必要性を説いています。このほか、有機溶剤をなるべく用いない塗料の開発などのさまざまな取り組みがあります。

化学物質の毒性について、急性毒性に関しては最もよく調べられています。そのほか発ガン性、慢性毒性、催奇形性(teratogenesis)なども科学的および医学的に研究されています。ところがアレルギーに関する毒性や、化学物質過敏症に対する毒性情報は今のところ十分ではありません。「塩ビ壁紙に含まれる難燃剤や防カビ剤の健康への影響は?」と尋ねられても、なかなか正確に答えられないのは残念です。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井