翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2012年09月27日
タイ東北部で多発している胆管がんの原因

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

近年、感染症と慢性炎症(chronic inflammatory disorder)が極めて重要な発癌因子(carcinogenic factor)であると認識されています。国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)は感染症が全世界の発癌要因の約18%に寄与すると推算しています。

感染に直接依存しない炎症性腸疾患などの慢性炎症性疾患も発癌に関与します。炎症関連発癌の分子機構(molecular mechanism)にはまだ不明なところが多いですが、炎症条件下でマクロファージや好中球(neutrophil)などの炎症細胞(inflammatory cell)と上皮細胞より産生される活性酸素種(reactive oxygen species)や活性窒素種(reactive nitrogen species)によるDNA損傷(DNA damage)が重要な役割を果たしていると考えられています。細胞から産生されるNOおよびO2-が反応すると、極めて反応性の高いONOO-が生成し、グアニン残基(guanine residue)と反応して8-ニトログアニンを生成します。DNA中で生成した8-ニトログアニンは極めて不安定であるため、遊離してアプリン部位(apurinic site)を形成します。アプリン部位はDNA複製(DNA replication)時にアデニンと対合しやすく、再度複製時にそのアデニンがチミンと対合すると、G:C→T:Aのトランスバージョンが発生してしまいます。

タイ肝吸虫はタイ東北部を中心とした地域に分布しており、その地域では胆管癌の発症が多発しています。ある研究ではハムスターにタイ肝吸虫を感染させて感染発癌モデルを構築し、8-ニトログアニンが肝内胆管の上皮細胞で顕著に生成することを明らかにしました。

これらの知見は、寄生虫(parasite)、細菌、ウィルスといった異なる病原体がいずれも、癌の好発部位に発癌に先駆けて8-ニトログアニンを生成することを示すもので、たいへん興味深いものです。

轄kエ翻訳事務所   医学翻訳・分子生物学翻訳・生化学翻訳担当:平井